盆栽の冬の休眠期にやった方が良いことといえば「殺虫殺菌」消毒。
ま、去年は何もしなかったのですがね。今年こそはと思いたち色々調べてみたのですが、冬期殺虫殺菌の代名詞と言われる「石灰硫黄合剤」がどうにも手に入らないらしい。
18Lなどの大容量での販売はされているみたいですが、流石にそんな量は要らないですし、、ね。
とまぁ、そもそも石灰硫黄合剤とはどんなものなのか知らなかったので調べつつ、購入できない石灰硫黄合剤の代わりに使える薬剤は何が良いのか調べてみました。
この記事の目次
石灰硫黄合剤とは
石灰硫黄合剤とは、殺虫・殺菌の両作用があり、果樹の越冬害虫防除にも高い効果を示す赤褐色水溶性の農薬。
カイガラムシや、私の長寿梅を苦しめたハダニ、うどんこ病をはじめ、赤星病、黒星病、などに効果があるようで、一人二役的な便利さと、その効果の高さにより昔から多くの盆栽愛好家に好まれているという安定の農薬。
石灰硫黄合剤の危険性
このように、とても便利そうな石灰硫黄合剤ですが、効果が高い反面危険な一面もあるようで、強アルカリ性のためタンパク質を分解する力に優れており、皮膚等への化学熱傷による被害が後を絶たないらしい。
石灰硫黄合剤による化学熱傷は、ちょっとした不注意で重症となることがあり、症例報告が後を絶ちません。
農薬中毒臨床全国調査 2010〜12年度 によると、石灰硫黄合剤による化学熱傷の件数は以下の通り。
- 1998〜2003年 化学熱傷7例 眼障害1例
- 2007〜2012年 化学熱傷3例
件数だけに注目してしまうとかなり少ないのでは、と感じてしまいますが、
- 症状が軽度であり病院を受診していない可能性
- 受診しても医師が中毒と判断できない可能性
- 外来受診の場合は件数把握が難しい(らしい)点
ということなので、事故件数が少ないとは言え、単純に表面化していないだけの可能性もあり、入院を必要としない程度の症例が件数に含まれていないのだとすると、これだけでは危険性は小さいとは言えなさそうです。
尚、農林水産省で公開されている情報によれば、過去5ヶ年の農薬事故及び被害の発生状況は以下の通り。
区分 | 23年度 | 24年度 | 25年度 | 26年度 | 27年度 | |
死亡 | 散布中 | 0(0) | 0(0) | 0(0) | 0(0) | 1(1) |
誤用 | 8(8) | 2(2) | 4(4) | 5(5) | 6(6) | |
小計 | 8(8) | 2(2) | 4(4) | 5(5) | 7(7) | |
中毒 | 散布中 | 10(18) | 18(36) | 11(12) | 11(22) | 10(33) |
誤用 | 18(22) | 18(22) | 13(18) | 13(13) | 12(25) | |
小計 | 28(40) | 36(58) | 24(30) | 24(35) | 22(58) | |
計 | 36(48) | 38(60) | 28(34) | 29(40) | 28(65) |
農薬事故はそんなに発生するようなものではなく、そもそも発生してはいけないもの、用法を守れば発生し難いもの、なのかもしれません。
ですが、前出の様々な研究機関などで啓蒙されている通り、気を付けなければならないことには変わりありません。
また、強アルカリ性のため金属も腐食するとのことです。アルカリ性で腐食する金属と単純に考えてよいのであれば、「アルミニウムや亜鉛、鈴、鉛」あたりになりそうなのですが、詳しく説明しているところを見つけられなかったのでよくわかりません。
参考:高校化学で習う両性元素(アルミニウム、亜鉛、スズ、鉛)の性質と反応まとめ – Irohabook
参考:金属の耐食性 | 情報プラットフォーム
と、なりますと、アルミ製の針金を盆栽に掛けていても平気なのかしら?
他にも、臭いが相当キツイらしく(化学的な資料では腐乱臭と。)、近隣とのトラブルになったなんていう書き込みを Yahoo!知恵袋で見かけました。
皮膚等への粘膜腐食性の剤
色々と検索している中で見つけたのでメモしておきます。「粘膜腐食性の剤」って凄い言葉の響きだったので。
Q:粘膜腐食性の剤とかかれた物がありますがどのような危険性があるのでしょうか。
A:口腔、咽喉、鼻腔のほか、消化器、呼吸器などの粘膜が接触したときに組織が破壊されたり変化したりする性質のある剤を総称していいます。粘膜腐蝕性の主な剤としては、たとえば、強アルカリ性の石灰硫黄合剤などが挙げられます。
石灰硫黄合剤は粘膜腐食性の剤のため、取り扱いに注意しなければならない。(きっとこんな使い方)
石灰硫黄合剤 販売自粛のお知らせ
さて、危険ながらも愛用者の多い石灰硫黄合剤の小容量のものは、いつ販売が自粛されたのか。
全国農薬共同組合の案内を見つけたので引用しておくと、平成22年(2010年)に製造メーカー各社が一斉に生産終了することにしたみたいですね。
6.石灰硫黄合剤登録メーカからのお知らせ
平成 22 年 2 月 17 日、石灰硫黄合剤登録メーカ(海野製薬株式会社、大塚化学株式会社株式会社おぎはら、株式会社さくら化興、株式会社白元、サンケイ化学株式会社、住友化学株式会社、細井化学工業株式会社、宮内硫黄合剤株式会社、柳井化学工業株式会社、有限会社余市農産工業)の登録各社から、全農薬組合員宛に、①「石灰硫黄合剤の小型規格(500mL、1L)生産中止のお知らせ」、②「石灰硫黄合剤のインターネット等による通信販売自粛のお願い」、③「石灰硫黄合剤の適正使用に関するお願い」についての 3 編の通知が派出されましたのでお知らせいたします。なお、内容は以下のとおりです。① 石灰硫黄合剤の小型規格(500mL、1L)生産中止のお知らせ
拝啓 貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。さて、石灰硫黄合剤は古くから果樹生産の根幹的病害虫防除薬剤として使用されており、使用者に有益な農薬ですが、近年、小型規格(500mL、1L)が本来の病害虫防除以外の目的で使用される事例が見受けられます。そのため、誠に勝手ではございますが、小型規格(500mL、1L)の生産は今春をもちまして終了することといたします。なお、18L 等の大型規格は今後も生産を継続いたします。今まで販売していただいた皆様にはご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解願います。敬具② 石灰硫黄合剤のインターネット等による通信販売自粛のお願い
拝啓 貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。さて、石灰硫黄合剤は古くから果樹生産の根幹的病害虫防除薬剤として使用されており、使用者に有益な農薬ですが、近年、本来の病害虫防除以外の目的で使用される事例が見受けられます。石灰硫黄合剤登録メーカとしましては、引き続き本剤の適正使用についてお願いして参りますが、注意喚起が行き届かないインターネット等による通信販売は、各お得意様におかれましても自粛していただくようお願い申し上げます。今まで販売していただいた皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解願います。敬具③石灰硫黄合剤の適正使用に関するお願い
拝啓 貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。さて、石灰硫黄合剤は古くから果樹生産の根幹的病害虫防除薬剤として使用されており、使用者に有益な農薬です。しかしながら、昨今登録されていない作物へ使用される事例が見受けられております。つきましては、ラベルに従い登録作物へ適正に使用するようご指導の程、宜しくお願いいたします。
要するに、小容量のものだと手軽に購入できてしまい、犯罪(自殺を含む)に使用されるケースが出てきているため、販売を自粛したと。
石灰硫黄合剤の安全性
販売自粛の引用文の中に、「石灰硫黄合剤は古くから果樹生産の根幹的病害虫防除薬剤として使用されており、使用者に有益な農薬です。」とあったので調べてみた所、平成4年の農薬メーカーの資料を見つけましたので、こちらもメモしておきます。
石灰硫黄合剤は、ヨーロッパ、アメリカでは100年以上前、日本でも50年以上前から広く使用され、多数の農薬メーカーが農薬登録を取得しているが、定められた使用基準を遵守すれば、安全性の高い農薬であり、有用な農薬資材の1つとして好評を得ている。
現在でも尚禁止されずに使い続けられていることを鑑みれば、安全かつ有用な農薬なのでしょうが、まぁやっぱり素人が簡単に手を出すにはハードルが高い印象があります。
石灰硫黄合剤の代わりになる農薬は?
ということで、石灰硫黄合剤の代わりになるもう手に入りやすく、少しでも危険性の低い冬用の殺菌殺虫剤は何になるのか調べてみました。
サンヨール(殺虫殺菌剤)
サンヨールがなかなか良さそう。上記スプレータイプのものは、サンヨール乳剤を家庭で使いやすいよう希釈したもの。乳剤でも液剤でも、展着剤不要という点もありがたい。
石灰硫黄合剤以外では、越冬するうどんこ病には効果がないかもしれない。
→ ならばまた春に出たときにやっつけるまでだ。石灰硫黄合剤をしないと夏の害虫の発生がひどいかもしれない。
→ マメに予防と対策をやっていく石灰硫黄合剤の代用としてはサンヨールを使う予定。
(※近代盆栽情報)
休眠期ならオケーって感じなんですかね。私冬はサンヨールメインで石灰硫黄合剤はシンパクの化粧にしか使ってないので調べてみまする
— Shuto🌳Araki (@shuarak) 2017年11月29日
希釈済みのスプレータイプは原液に比べ割高ですが、取り扱いやすいので買うならスプレータイプが良いでしょうか。(鉢少ないですし)
「越冬病害虫対策としてはやや効果が弱い印象」なんてことも言われていますが、一人二役してくれる便利さも捨てがたいです。
ダコニール(殺菌剤)
ダコニールも割と名前を見る農薬です。広範囲の病害に有効で、取り扱い易い方の農薬だと思われます。
- 水中に入れ撹拌すれば速やかに安定した散布液が作成可能
- 有効成分が微粒子なので植物に均一に付着し、高い防除効果を発揮
- 薬剤による汚れが少ない
参考:ダコニール1000
ではいつかけるか?
それは新芽の吹く前、葉が展開する前に周囲の菌を先に退治しておくのです。その後も病気は出ていなくても、菌はとりついているという前提のもと予防を行ってください。
予防には効果の長いダコニールがおすすめ。ベニカなどの浸透移行性殺虫剤と合わせて予防するとさらに良し(^^♪
刷毛だったら飛散しませんね。しかし、数が多くなって来ると噴霧機で一気に散布したい衝動に駆られます。ある所で知り合った大阪の都会の盆栽園さんはスミソン+ダイン+ダコニール混合で対策してる様です。気になるハダニ対策はどうしてるかが気がかりですが。
— Shiroshitan (@SYOHIN_BONSAI) 2017年11月29日
ただ、ダコニールには殺虫剤としての機能はないので、スミソン乳剤やベニカ水溶剤などを別途使用する、と。樹木に合わせて、、というか、虫に合わせて殺虫剤は選ぶといいのかな。
農薬選定が難しすぎる問題
ということで、石灰硫黄合剤の代用として農薬を少ししか上げられませんでしたが、園芸資材店に行けばびっくりするくらいいろいろな種類があって、とにかく混乱します。
人間の病気と一緒で、正しく抗生物質を使用しないために、抗生物質の効かない病原菌が現れて、新薬を開発しなければらないみたいなことが、農業界隈でも起きているのかもしれません。(いや、知らんけど)
種類の多さも去ることながら、押さえておかなければならないポイントが多すぎる。
- 抵抗性の出現を避けるため、異なる薬剤をローテーションして使用する
- 単に商品名が違うだけではなく、農薬には系統があるらしいので、系統別にするべき
- その農作物に対して使用上限がある(食物ではなく盆栽の場合どうしてるんでしょうか?数年で使用上限すぐ到達しそうですが)
- 組み合わせて使ってはいけない農薬がある。または、順番に使用する場合「◯日間間隔を空ける」などがある
- 薬剤によって使える農作物と使えない農作物がある
- 薬剤によって農作物毎に希釈倍率が異なる
- 溶液を作る場合、混ぜる順番がある
- 気候の影響を受ける
- 農薬取締法の制限を受ける
上記を踏まえた上で薬剤散布の年間計画を立て、効率的・効果的に薬剤の購入をしたいところですが、それを待っていると後何回冬が来てしまうかわからないので、サンヨールALをポチリました。
とりあえず。
取り急ぎ。
(´-`).。oO(農薬の関係性のわかる図みたいなもの、誰が作ってくれないかな。)
農薬まとめページを作成したので、良ければご覧になってください。
参考:盆栽で使える農薬リスト | 盆栽 BOOOKs
私も農薬の系統はまだ不勉強…というか、対策しててもやられる時はやられるので、おまじないだと思ってやってます。
ちなみに、石灰硫黄合剤は硫黄が入ってるので、そのまんま硫黄の匂いがします。温泉街の腐った卵臭というか。
まさにそのまんま硫黄なんですね。そういえば、Yahoo!知恵袋で「温泉の素みたいに入浴剤として使えますか?」といった書き込みがあったような・・w
農薬利用に関しては、輪番使用を怠り最強モンスターを生み出すことだけは避けねばと思う次第です。